時々天然で卑怯な彼女と常時確信犯で卑怯と呼ばれる俺。
さて、より卑怯なのはどちらか。
卑怯者二人
触れた手の繊細さに驚いた。
本人曰く荒れたその手は俺から見れば肌理細やかで驚くほど白く細く、ピアノを弾く姿が
似合いそうな手だとその白い甲を撫でながら思った。
「何笑ってるの?」
想像したそれが本当によく似合っていて、思わず緩んでしまったらしい俺の頬を彼女が撫でた。
触れている手とは逆の掌。指先。
頬を撫でる上から握った華奢なその手は少し力を入れれば簡単に折れてしまいそうで、自然と握り方が優しくなった。
「…もっと」
「……ん?」
強く、握って
そう小さく呟いた彼女の声からは照れた感じが滲み出ていて、頬を覗き見るとは少しだけ朱に染まっていた。
(あぁ…、何て可愛い女なんだろ俺のマリューさんてば)
年に似合わない可愛らしさに軽く笑ってぎゅっと、ほんの少しだけ力を入れる。
それでも「もっと」と彼女がねだるから、また少し、本当に少しだけ力を入れた。
「もっと、」
「もっと?」
本当に折れてしまいそうな華奢な手。
その手がほんの少しも痛まないよう意識して力を入れる。
こんなに気をつけて女の手を握ったのは多分初めてだ。
と言うか、今まで握った別の手はこんなに華奢で可憐だっただろうか。
なんて。
軽くどうでも良いようで実は重要(かもしれない)なことを考えた。
「…もっと」
「…何、どうしたの?何か積極的だけど」
からかうように言ってみる。
正直これ以上は勘弁して欲しいという情け無い本音を隠して。
ついでに握るその手の指先に軽く音を立ててキスを落とす。
「らしくない、かしら?」
赤い顔して、俯いて、ぽつりと呟く。
そして軽く上目遣いに俺を見る。
それがいかに恐ろしい仕草だかいい加減気付いてほしい。
これだけの仕草でどんな男だってイチコロだ。
無意識なもんだからまた怖い…俺の前だけってのがせめてもの救いなのかもしれない。勿論俺にとって。
「ムウ…?」
「ん?や、らしくないことはないよ。マリューさん意外と寂しがり屋だし?」
にやりと笑ってそう言うと、からかわないでと拗ねたように唇を尖らせた。
(可愛い拗ね方だこと)
けれどもそんな表情は一瞬で、すぐにふにゃっと柔らかく俺の一番好きな顔で笑った。
幸せそうに笑うこの顔が好きだ。
「好きなのよ」
「痛いのが?」
間髪入れずに言うと、ギラリと鋭いまなざしが返ってきた。
うん。
怒った顔も相変わらず綺麗だ。
実はこの顔も好きだったりする。だってほら凛々しくて美しいじゃないか。
けど、このまま茶々を入れ続けると意外と重い彼女の鉄拳を食らうはめになるな。
それはちょっと勘弁して欲しい。
マリューさん意外と武闘派だから痛いんだよね。軽く腫れ上がるくらいには。
そう思って両手を上げて降参のポーズ。
「ごめんごめん、許して下さいマリューさん」
ジト目を向けていた彼女は、ふぅと一度小さく溜め息を付いて仕方ない人ね、と目で語った。
この目も俺は好き・・・や、まぁ正直どんな顔だって好きなんだけどさ。
「で、何が好きだって?」
「手が・・・と言うか手を、かしら」
「手?」
「貴方の手が好きで、その手に手を握られるのが好きなの」
いい年して恥ずかしいかしら。
そう言って、また照れくさそうに笑う。
その顔が本当に幸せそうなもんだから、少し参ってしまった。
あぁ、ほら見ろどうしてくれるんだよ。
俺今スゲェ舞い上がってるぞ。
「ムウ?」
「マリューってさ、卑怯だよね」
え?とキョトンと目を開いて俺を見た。
きっと知らないんだろうな。この顔も卑怯だってこと。
「卑怯って何が?」
「んー…強いて言うなら、全部?」
何よそれ、と。
納得いかないというように眉をひそめて俺を見る。
「マリューは可愛すぎて卑怯だって言ってるんだよ」
訝しげな顔でさえ可愛らしいもんだから、あとほんの数センチで唇がぶつかるくらいの至近距離で言ってやった。
一瞬キョトンと目を開いて、その後一気にマリューの顔は真っ赤に染まった。
「……そういうことさらっと言ってのける貴方の方がずっと卑怯だと思うわ」
卑怯な顔して俺を卑怯と言う。
確かにマリューが照れることを分かっていてこんなことを言う俺は卑怯なのかもしれない。
でも俺が照れることを、と言うより照れていることすら知らないくせに、
とんでもないこと言っちまうマリューもよっぽど卑怯だと俺は思う。
さて。
確信犯な俺と、天然な彼女。
より卑怯なのはどっちだ?
どっちだって良いっていう突っ込みは勘弁して下さ…orz
初のフラマリュ文章は甘めになってしまいましたとさ!挙句キャラが変わってしまいましたとさ!!
…………orz
ちょっと修行しようかと思います。マジで。
2006/11/06
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